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付着防止のはなし

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第1回 付着生物との戦い!

発電所を安定に稼働させるために必要な技術としてクラゲ対策の話をしてきました。

そして、もう一つ重要な対策として、取水路や取水口などの海洋構造物に対する海洋生物(海棲生物や海生生物とも言います)の付着防止技術があります。

付着する海洋生物は季節や場所によってさまざまですが、そのほとんどは貝類です。

これらの貝類は、クラゲ防止網だけでなく、岸壁、カーテンウォール、取水口、取水路、スクリーン、ポンプなど海水と接するところすべてに付着します。

こういった海洋生物が付着してしまうと取水効率が悪くなったり、ポンプが壊れたりなどして取水を停止しなければならない恐れがあります。
発電所では、蒸気を利用して発電しているので、その蒸気をもとの水に戻す(復水と言います)必要があります。復水を行うには大量の海水が必要となるので取水ができないと発電ができなくなります。
そのため、定期的に構造物のメンテナンスを行って除去したり、付着しないような工夫を行っています。

そして、付着防止については海洋構造物だけでなく他に海水と接している「船」に関しても同様です。

Model of a greek trireme
Deutsches Museum, Munich, Germany [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

古代ギリシアのガレー船(紀元前5世紀)

実は、付着する海洋生物と船との戦いの歴史は紀元前にまでさかのぼります。a)
古代ギリシャの時代、ガレー船と呼ばれる木造の軍艦に、鉛で覆われた板や銅の釘が使われていたとされています。

また、コロンブスで有名な大航海時代には船底を覆うために樹脂や牛脂が使われていたと考えられており、後の時代ではタールやグリスを含む塗料が開発されました。
その後、船底の被覆には銅が使用されるようになり、20世紀には船底塗料としての開発が盛んになりました。b)
ところが、塗料の中に環境ホルモンとして知られている有機スズ化合物を含むものが多くなり、海洋汚染につながるとして使用が禁止されました。

船の歴史のなかで木造船から鉄船に代わっていきましたが、近年の船では船底が赤いものが多いことはご存知でしょうか。では、あの赤い色はどうしてなのでしょうか。

付着生物が嫌いな色?さびの色?デザインてきなもの?
今回はここまで。答えは次回にて。

reference:
a)Lionel, C. "THE ANCIENT WORLD". Illustrated History of Ships & Boats. Doubleday & Company Inc., 1964, p. 1.27-1.42.
b)岡村秀雄. 船底防汚剤による海洋汚染と生態系への影響. 安全工学, 2006, 45(6), p. 399-407.
第2回 船底塗料はなぜ赤い
亜酸化銅(Cu2O)の粉末

よく知られているかと思われますが、船底塗料で多い色である赤色はなんでしょうか。
実は、塗料に含まれる銅(正確には亜酸化銅)の色です。c)
亜酸化銅には海洋生物が付着しにくい性質を持っているので船底を保護する為に使われています。d,e)

では、船底塗料が必要な理由は何でしょうか?
船の底には常に海水と接しているため、フジツボのような貝類やワカメなどの藻類が多く付着します。

船が航行する際にはこれらが邪魔になり速度が遅くなったり、燃費が悪くなったりします。

この影響を示したエピソードには、日露戦争末期に起きた日本海海戦の話がよく持ち上がります。
その勝因の一つに、ロシア海軍のバルチック艦隊がバルト海から7か月かけて日本へやってくるうちに船にくっついた大量の貝によってスピードがでなかったからだとも言われています。f) ※諸説あります

船底塗料についてはもう一つ知られていることがあります。
なんと、日本の特許第一号は船底塗料についてでした。g)
1885年漆工芸家である堀田瑞松がうるしや鉄粉を混ぜた塗料を発明しました。
これにより、定期的に行っていた船のメンテナンス(塗料の塗りなおし)の周期が大きくなり船の往来が増え経済的にも発展しました。

これまでお話ししてきたように、人類の歴史は海生生物付着防止との歴史とであることがわかります。
これからも海とその中の生物とは互いに共生し、歴史を刻んでいかなければなりません。

reference:
c)銅が海生生物の付着を防ぐ船底を守る赤い塗料. 銅, 2016, vol. 182, p. 3.
d)U.S.Naval Insutitute, Marine Fouling and Its Prevention, 1952, 388p.
e)Yebra, DM; Kiil, S.; Dam-Johansen, K. Prog. Org. Coat. 2004, vol.50, p. 75-104.
f)Robert, F. Russia Battleship vs Japanese Battleship: Yellow Sea 1904-05, Osprey, 2009, p. 32.
g)堀田瑞松. 堀田錆止塗料及ビ其塗法. 特許第1号. 1885-8-14.